「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫だろ」 突如大地を揺るがした大きな揺れ。オレは咄嗟に倒れてくる電柱から子供を庇い、崩れてくる建物や飛んでくる瓦礫からその子を守りつつ逃げていた。 (高嶺は……どこだ?) あまりに突然な出来事だったため先程まで目の前に居たキュアヒーローを見失ってしまっていた。 (まぁ……あいつなら逃げれているか) 「うぅ……痛いよぉ……」 「はぁ……ちょっと見せてみろ」 抱えていた子供は先程まで瓦礫に足を取られていた。そこは赤く腫れ上がっており、数日は歩くことは困難だろう。 「大した傷じゃない。適切に処置すれば大丈夫だ」 オレは上着を脱ぎ、同時にあるものを探す。 「あった……」 綺麗な水を手に入れるためすぐ近くの自販機に行き拳を固める。 (いや……やめとくか) そういえば財布もしっかり持っていたし、無闇に破壊するのは良くないと思い留まり硬貨を取り出し天然水を購入する。 「よし……これで大丈夫だ」 念の為傷口を洗い、水で冷やした上着で傷口を抑える。 「あとは避難所とやらに送るだけだな。適当にそこら辺の人間に……」 「ねぇお兄さん……もしかしたら僕の家族……逃げ遅れてるかも」 「あ?」 「双子の妹が今日一人で留守番してて……あいつ動き遅いから……」 自分の大切な片割れを心配するその様子。それが妙にメサの姿と重なる。あの日、あいつの親友が人間に殺された日、そいつが居ないと泣き喚く姿に。 「おぶってやるから案内しろ」 「いいの……?」 「早くしろ……手遅れになったら一生後悔するぞ」 それからその子の言うままに足を動かし、潰れた民家の前まで行く。 「潰れてる……もしかして……」 「まだ諦めるな。ちょっと退かしてみる」 普通の人間なら諦めているかもしれない。だがオレはイクテュスだ。人間態でもこれくらいの瓦礫退かすのは訳ない。 「居た……気を失ってるが目立った怪我はないな……」 瓦礫の下に小さな女の子が居たが、居場所が良かったのか運良く潰されず隙間に入り込んでいた。 「あ、ありがとうお兄さん!!」 「礼なんていい……オレはやることがあるんだ。とっとと安全な場所まで行くぞ」 両脇に子供を抱え、オレは避難する人についていき安全な場所まで二人を運ぶ。 「ほ、本当にありがとう
歩くこと十分と少し。途中そこそこの揺れに襲われながらもなんとか近所の小学校の体育館に入る。 「健橋先輩と橙子さんは?」 「二人はここから遠いし、毒も消えて変身できるから救助活動をしてる。ボクも君達を安全な場所まで下がらせたら参加するようにさっき言われたよ。それくらい人手が足りないんだ」 (さっきは生人君を反逆者扱いしてたくせに……手のひら返してすぐこき使うなんて……) きっと鷹野さん率いる特殊部隊の人達も救助活動に参加しており、そこで手が足りず恥を承知でという流れだろう。 理解はできるがそれでも今の生人君の心情を考えるとあまりに不憫だ。 「じゃ、行ってくるから二人は休みながらキュアリンか鷹野さんからの連絡を待ってて」 生人君は文句一つ言わずにすぐに飛び出して行く。 「た、高嶺……?」 彼のことについて思い悩んでいると背後から声をかけられる。 「朋花ちゃん……!?」 それは私が波風ちゃんを失い気が狂っていた時、手を上げて椅子で殴りつけようとしてしまった相手だった。 「ひ、久しぶり……学校に来ないから何かあったのか心配だったけど……げ、元気そうで良かったよ」 当たり障りのない話をして心配する様子を見してくれるが、どこか怯えた様子だ。前回私があのようなことをしてしまったから。 「待って高嶺は……あ」 波風ちゃんが弁明しようとしたものの、すぐに自分が朋花ちゃんに見えていないことに気づき言葉を詰まらせる。 「朋花ちゃん……」 「な、なに……?」 「ごめん!!」 私は髪を揺らし耳にかかるほど深々と頭を下げて謝罪の意を示す。 「高嶺……? そ、そうだよね! やっぱり前のは何か……事情があったんだよね!」 私は裁判所で罪を自供する容疑者のようにゆっくり首を縦に振る。 「ね、ねぇ……それならやっぱり波風は……それにキュアウォーターとキュアイリオって……」 「朋花ちゃんが思ってる通り……だよ」 波風ちゃんも俯きわたしと似たような表情をする。 「そんな……頑張ってたん……だね。ごめん……高嶺の辛さも知らずにあんなズケズケとみんなの前で聞いちゃって……」 「朋花ちゃんが謝ることなんてないよ!! 寧ろ私が……」 [高嶺! 波風! 聞こえるか!?] キュアリンからのテレパシーが脳内に響き、朋花ちゃんへの言葉が遮
大地を揺るがす大揺れが来てこの場に、いやこの街に居る全ての物を揺らす。 [高嶺逃げっ……] 「いやぁぁぁぁぁっっ!!」 動悸が収まらず脳内が恐怖で支配され、波風ちゃんの声は届かず脳に入る前にシャットアウトされる。 「おいたか……」 クラゲの奴がこちらに来ようとするが、奴と男の子の方に電柱が倒れる。 「くっ……!!」 奴は咄嗟に男の子を抱え後ろに跳んで電柱を躱す。そのままそっちに大量の瓦礫が崩れていきすぐに姿が見えなくなる。 [高嶺避けて!!] 気づいたらすぐ側まで崩れた建物が迫ってきていた。 「あっ……」 ☆ [……ね……高嶺!!] 朦朧とする意識の中親友の掛け声で意識が覚醒する。 「えっ……? これは?」 目を開けるがろくに光が入ってこない。身体が上手く動かせず、私達はどうやら瓦礫に押し潰されてしまったようだ。 「氷……?」 [あ、うん! 高嶺が寝ている間氷で壁を作って瓦礫が潰すのを防いでたの!] [そんな一体どれくらい力を使い続けてたの!? 大丈夫!?] [だ、大丈夫よ。まだ数分だし、生人さんも呼んだから……] テレパシーの途中で上の方で物音がする。 (これは……生人君の触手?) 触手は瓦礫の隙間を縫いまず崩れるのを防ぎ、次はそれらを一気に引き上げる。 「高嶺!!」 瓦礫が退かされた先には見知った生人君の顔があった。 ホッと一安心し変身を解除するが、次の瞬間私は絶望することになる。そして思い出す、地震が起こったのだと。 「あ……いや……!!」 「見ちゃダメ!!」 私のことをよく理解している波風ちゃんが即座に私の目を塞ぐが、半透明なため視界を遮れない。 街が壊れていた。ハンマーの奴がやったものじゃない。それ以外にも、視界に見える全てで建物が崩れ火が上がっていた。 「何これ……何が起こったの……?」 「地震があったんだよ……震度6の揺れが。この街だけじゃない。他の場所もこんな風になっているらしい……」 「そんな……それじゃあまるで十年前の……うっぷ……!!」 十年前の光景が鮮明に蘇る。波に全てを奪われ、それでもほんの少しの希望に縋り強がり、結局それすらも奪われ心を壊したあの時の出来事が。 「うぉぇぇぇ……!!」 込み上げる嘔吐感に耐えきれなくなり、私は地面にで
「ぜぇ……ぜぇ……ごふっ!!」 奴はついに立っていることすらできなくなり血を吐きながら膝を突く。 (あいつ……腹に穴が開いているのにまだ灰にならない……なんて生命力……!?) 「そんな……こんなところで……!!」 だが流石にこの状態で生き永らえることは無理なようで、傷口からポロポロと灰が溢れ始める。 「痛い……痛いよぉ……!!」 突然横の方から男の子の啜り泣く声が聞こえてくる。先程までは爆発と悲鳴で掻き消されていたが、それらが消えたことによって私達の耳にも入ってくる。 見れば爆破され崩れた建物の瓦礫に足を取られており、その箇所は赤く腫れ上がっている。あの様子じゃ動くことはできないだろう。 「ぐっ!!」 奴は血反吐を吐きながらもその子供の方に向かって飛び出す。 「しまっ……!!」 奴の方が子供に近く、最後の力を振り絞ったのか死に際とは思えない速さで子供の元まで行き首根っこを掴み瓦礫から無理矢理引き摺り出す。 「動くなっ!!!」 首に指をめり込ませ、私達に向かって奴が怒鳴る。 「一歩でも動いたらこのガキを殺す……!!」 「くっ……!!」 足を止めその場に急ブレーキをかける。奴の目は本気で、動いたら本当に殺す、道連れにするつもりだ。 「その子を離してっ……!!」 助けようとしたらその瞬間に男の子の首は飛ばされる。私はその場に足に釘を打たれながらも必死に訴える。 「変身を解いてこっちに来い……」 「え?」 「おまえの命と引き換えにこのガキを助けてやるって言ってんだ!! もし断るなら……このガキを道連れにする……!!」 (こいつ……!!) 人質を取り、こちらの命を交換条件に出してきた。 「早くしろ……こっちは時間がないんだよ!!」 奴は傷口からボロボロと崩れ始める。もってあと数分といったところだろう。だからこそ焦っているし、今にも男の子の首をへし折りそうな勢いだ。 「わたっ……しは……!!」 [高嶺ダメっ!!] 私はブローチに手を伸ばそうとするが、中に居る波風ちゃんが必死に叫んで呼び止める。 [で、でも……あの子が……!!] [馬鹿!! アイツが約束を守ると思うの!?] [それはそうかもしれないけど……でも!!] 手がブローチの前で止まり激しく震える。この状況に動悸が収まらなくなり始
「キュアチェンジ!!」 あれから少ししてまた奴が暴れているとの報告があり、唯一動ける私達が向かうことになった。二人は歩けるようにはなったものの毒がまだ抜けきっておらず戦闘は厳しい。[あのクラゲにも警戒していかないとね……][アタシも警戒するけど、気をつけなさいよ!][う、うん! 波風ちゃんもできる範囲で良いからサポートよろしくね!] 先程の二人のように戦闘中に横槍を入れられてはたまったものじゃない。私達は警戒しつつもこれ以上被害者を出さないために急いで街を駆ける。「あっ……!!」 衝撃が強くなる方にひたすら向かっていると、私達は凄惨な光景を目の当たりにすることになる。 段々と強くなる焦げ匂い。それが最高潮に達したところでは、大量の死体の山が積み上がっていた。「酷い……!!」 老若男女問わず皆殺しといった感じで、死体の側には泣き崩れる家族や残された者達も居た。「あぁっ!! 死ね!! 死ねぇ!!」 骸の道標の先で奴は発狂しながら暴れ虐殺の限りを尽くしていた。容赦や罪悪感などはそこに一切なく、なんの躊躇いもなく建物を破壊し人の体を潰していく。「やめろっ!!」 あまりの残虐さに我を失いそうになり、激昂しながら奴の方へ氷を出し腕を凍てつかせ暴虐を止めさせる。「キュアヒーロー……!!」 腕の氷は容易に破壊され、私達を視認すると奴の顔に浮かび上がっていた血管は更に倍増し、民間人に向けていたものとは比にならない程の憎しみを向けてくる。「っ……!!」 明確にこちらに向けられた、今までとは比にならない殺意。悪意の籠った視線が突き刺さり鳥肌が立つ。「これ以上街を壊させない……来いっ!!」 しかしそれでも臆するわけにはいかない。立ち向かう足に力を込め、悪魔を討ち取るべく前進する。 地面を凍てつかせ、その上を滑り加速する。相手の動きに合わせて氷を曲げさせ、時に空中に道を作ってそこを進み爆発を回避する。[リボンで上手くサポートするから隙を狙って!!] 波風ちゃんは爆風を氷の壁でガードしつつ、リボンを巧みに動かし奴の手足に絡めようとする。「速いっ……!!」 怒りで痛みや身体のセーフティーロックが外れてしまっているのか、奴は反動や体のダメージなど気にせず限界を超えて肉体を動かす。前より速さが格段に上がっており、リボンも中々絡みつけず躱される。(
「もう振り切れたか……」 建物の壁を伝いながら、混乱し逃げ惑う人達を尻目に退却する。追手の姿はなく近くに誰か潜んでいる様子はない。ここらで良いだろうと適当な河川敷に入り込み脇に抱えていたライを降ろす。「てめぇっ!!」 ライは降ろされるとすぐに拳を硬め、容赦なくオレの顔面を殴り抜く。赤い血が口から舞い、そこまでのダメージではないもののよろめいてしまう。「何であいつらを殺さなかった!? あのタイミング……二人を殺せたはずだろ!!」「そう……かもな」 戸惑い思考がまとまらないせいか、せめて何か言い訳をすればいいものの上手く言葉を紡げない。そんな対応をしているせいか、よろめきが治った頃合いでもう一発重い一発を受けてしまう。「ふざけるな!! メサを殺されて何を躊躇う必要がある!? 人間は悪魔だ……分かり合うことなんてできない……最初にそう言ったのはお前だろ!!」 ライの一言であの頃の、地上に来て人間について調べ始めた頃の記憶がフラッシュバックする。人間に失望し、憎悪し、それを王に報告したあの時のことを。(そうだ……この争いは……オレが……)「もうお前には頼らねぇ……アタイだけでも、一人でも多く人間を殺してやる……!!」 "待て"とは言えなかった。オレにライを止める資格なんてない。争いの種に着火したオレなんかに。 ライが立ち去ってしばらくし、遠方から甲高い悲鳴と鈍く低い爆発音が響いてくる。また、始まってしまった。果たしてキュアヒーローとライの戦いはどうなるのだろうか? 結果は分からない。だが、大量の死体が生み出されることだけは容易に想像できる。「今更……どうしたら……」 戦いを止めようにもオレの一存でできるとは思えない。だが争いに加わろうとも胸の奥底で痛むものが邪魔でもうできない。 八方塞がりとは正に今の状況のことを言うのだろう。どこにも行けない。何もできない今みたいな状況を。「ここに居たんだね」 また、奴の声が背後からする。いつ回ったのか分からないが、そんなことどうでも良い。攻撃してこないことなんて分かっているし、オレはゆっくりと振り返る。「君はさっき……神奈子と橙子を助けてくれた……そうだよね?」「メサが殺された時……オレもライのように怒りに飲まれそうになった。よくもオレ達の仲間をって……」 今でもその怒りはハッキリ覚えてるし、